2018年1月13日土曜日

『anone』 第1話を読み解く

パウル・クレー『忘れっぽい天使』

脚本が坂元裕二で演出が水田伸生と知ったら、見ない訳にはいかない。ともすれば救いのない真っ暗闇になってしまいそうなところを、演出や詩的なセリフ、広瀬すずの存在でそこまで落ち込まないよう慎重にコントロールしている印象。感想を書き出すとキリがなさそうなので省略! 今後このドラマを観ていくにあたり、第1話で押さえておいた方が良さそうなところをまとめてみる。

■ 赤と青
 このドラマではメインとなる4人にイメージカラーみたいなものが与えられている。

赤:青羽るい子、持本舵
青:辻沢ハリカ、紙野彦星

 ちょっと面白いのは、子供時代のハリカが赤い服を着ていて、青羽るい子の名前に「青」が入っていること。何か含みがありそうな感じではある。

 この二組は相似形だ。余命半年と宣告された舵と、難病で死を覚悟している彦星。死に場所を探してると言いながらも居場所を求めて彷徨っているようなるい子、と、バイトは近くに「死」があり、家族も家もなくネカフェで暮らすハリカ。二組を対比させながら話が進むことになるのだろう。

■ 偽物と本物
 坂元脚本に限ったことではないが、複数のエピソードを並べ、それらの共通点や対比的な要素を見出してもらい、それによって何かを感じてもらう、という手法は珍しくない。今回は「偽物」と「本物」が多く出てくるので、それぞれ分けてみる。

偽物(作られたもの):
・ネットカフェの友情
・ハリカの偽の美しい記憶
・偽札

本物(現実):
・孤独死が残すもの
・お金への執着
・ハリカの本当の記憶

 ここでドラマを思い出すと、「偽物」は壊れて(壊されて、と言った方がいいかも)いくことに気付く。そして「本物」は醜い。今後は偽物でもいい、あるいはそれでも本物がいい、というような展開になることを予感させる。
 このドラマのキャッチコピーは「私を守ってくれたのは、ニセモノだけだった」。第1話の時点で既に「ニセモノ」に囲まれていて、それは壊れてしまったが、また別のニセモノが追加されそうだ。

■ 風車
 3枚羽の風車の映像が何度も出てくる。それはハリカの子供の頃の記憶とつながる目印であるし、林田亜乃音を中心に青羽るい子、持本舵、ハリカの3人がグルグル回るイメージを伝えているようでもある。第1話がすでに亜乃音が落とした偽札で3人が振り回される話ではあったが、今後4人が擬似家族を構成する話にもなりそうだ。

■ 織姫とスケボー、カノンと分身
 「映像による語り」で最も印象深かったのは、彦星のいる病院を見つけたハリカが川を挟んでチャットする場面。「川」は間違いなく「天の川」を意識している。説話では、織姫と彦星をつなぐ橋をかけるのはカササギ。このドラマではその代わりに、じっとして動かないハシビロコウを出すことで、二人の間にまだ橋がかからないことを伝えていた。ハリカはやはり織姫に見立てられているので、二人はなかなか会えそうもない。

 そもそも「何でハリカがスケボー?」と思っていたのだが、織姫であることを踏まえると、機織り機の部品を表現していたのかなと。縦糸の間をスーと通すやつ、って雑過ぎて分からないから写真を:



 正式には「杼」(ひ)と言うらしい。

 彦星がチャットで使った「カノン」という名前は「正典」という意味がある。映画では本編を「カノン」と呼ぶことがあり、そこで扱わなかったエピーソードで「スピンオフ」を作ったりする。『スターウォーズ』で言うと、エピソードI~VIIIがカノンで、『ローグ・ワン』がスピンオフだ。ということは、ハリカは彦星のスピンオフ的存在、つまり彼が見られない世界を体験する人ではないかと思えてくるが、そういうことだというヒントがドラマの中で提示されている。

 ハリカの外見には意味が込められている、と思う。彦星が子供のときに着ていた青いダウンジャケットと前髪のイメージをハリカは引き継いている。「ハリカ」という名前は、例えばファンタジーなら男でも女でも通用しそうだ。ベリーショートの髪型もあり、彼女は少年のように見える。そしてハリカを演じる広瀬すずは、声でも「男の子」を表現しているようにも感じられる。彦星がハリカに望んでいるのは「外の話を聞かせてほしい」で、実際にそうしている段階で、ハリカは彼の分身のような役割を負っていることになる。彦星になりかわり、今の彼が絶対に出来ない、外の世界を見ることをハリカがしている訳だ。

 ここで引っ掛かるのが、ハリカが彦星と施設を抜け出したときの記憶が無いこと。彦星のこと自体ほとんど憶えてないとすると、無意識に今のような格好をしているのだろうか?何度か出て来たクレーの『忘れっぽい天使』が示すように、ハリカは忘れっぽいだけなのか?それとも演出でその格好をさせているだけなのか?

 「記憶」の問題は厄介だ。施設にいた頃の辛い記憶を美しい記憶に書き換えてしまったのは分かる。しかし、彦星との記憶がないのは不自然で、ハリカが記憶の一部にフタをしてしまっている可能性もあるし、彦星が全くの嘘を言っている可能性すらある。この辺は次回以降を見ていかないと分からない。

 ハリカは織姫と彦星の分身的存在という2つの役割を担っていることになる。しかし、彼女が彦星という男子を演じでいるような状況では、織姫という女子の部分は抑えられてしまっているように思う。彼女が分身的役割を終えたとき、織姫として彦星に会える気がするのだが、これって...

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